2025年7月1日、弊社科学顧問 齋尾 智英先生(徳島大学)のチームの最新研究が論文公開されました。
この論文では、弊社コア技術「MAGmir(読み:マグミル、*1)」により、神経変性疾患のひとつである筋萎縮性側索硬化症(以下、ALS(*2))の病態発症メカニズムに、タンパク質の構造変化ではなく、タンパク質の動態変化(*3)が重要であることを明らかにしました。
タンパク質は、その機能が正常に動作するために、適切なフォールディング(折り畳み)をして構造変化を行う必要があり、分子シャペロンはその動きを助けます。
これまで、ALS発症において、タンパク質に異常な構造変化が起きていることは分かっていましたが、その経緯は明らかではありませんでした。 本研究は、タンパク質のフォールディングに関わる分子シャペロンが本来持つミリ秒~マイクロ秒の単位の構造揺らぎが、ALS関連変異によって失われてしまうことを核磁気共鳴法(以下、NMR(*4))により明らかにしたものです。この研究は、創薬において捉えるべきものはタンパク質の構造の変化のみならず、構造揺らぎ、すなわち動態の変化であること、そしてそれがいかに重要であるかを示すものと考え、NMRの創薬における独自の価値を証明します。
弊社では、NMR技術であるMAGmirを駆使した、精密な動態評価の受託解析を提供しています。分子の構造だけではなく動きを見る技術で、より高度なメカニズムの解明に貢献いたします。
論文本文はこちら:「A Disease-Associated Mutation Impedes PPIA through Allosteric Dynamics Modulation」
(*1):MAGmir
核磁気共鳴法(*3)を利用した詳細な分子動態情報を取得する方法
(*2) :筋萎縮性側索硬化症(ALS)
筋肉が萎縮し、力が弱くなっていく病気。筋肉そのものではなく、筋肉を動かし、運動をつかさどる神経(運動ニューロン)が障害を受ける。これにより筋肉を動かす命令が伝わらなくなることで、筋肉が痩せていく。
(*3):タンパク質の動態変化
タンパク質の動き、タンパク質構造のゆらぎ、タンパク質の動的挙動の変化のこと
(*4):核磁気共鳴法(NMR)
NMRはNuclear Magnetic Resonanceの略。磁場中に置いた物質の原子核が自転し、電磁波に応答する性質を利用して、分子の構造や性質、運動状態を調べる分析手法。溶液中における生体分子を原子分解能で観察することができる。