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  3. 蛋白質折り畳み補助因子の相分離が、タンパク質の品質管理機能を促進                                                                             ~ MAGmir が解き明かした、小胞体内の新しいメカニズム ~

蛋白質折り畳み補助因子の相分離が、タンパク質の品質管理機能を促進                                                                             ~ MAGmir が解き明かした、小胞体内の新しいメカニズム ~

2025 12/25
研究
2025-12-25 2025-12-25

 2025年11月11日、弊社CEOの森英一朗および科学顧問の齋尾智英先生(徳島大学)が参画した国際共同研究の成果が、「Nature Cell Biology」のオンライン速報版に掲載されました。本研究は、東北大学の奥村正樹先生らとの共同成果です。

 モルミルでは、ALS、パーキンソン病、アルツハイマー病などの神経変性疾患の治療法開発のための研究を行っています。神経変性疾患は、構造異常タンパク質の過剰な蓄積によって発症することが知られています。健康な体は、どうやって構造異常のタンパク質を蓄積させないのか。この疑問に答えるには、タンパク質品質管理の仕組みの理解が鍵となりますが、未だその仕組みは不明な点が多く残されています。奥村先生の研究では、小胞体(*1)におけるインスリン(体内で唯一の、血糖値を下げる役割を持つホルモン(タンパク質))の加工の仕組みを一例に、細胞がタンパク質品質管理をどのように行っているのかを明らかにしました。

 小胞体は、様々なタンパク質が正しく折り畳まれ、本来の機能を発揮できる構造かどうか、正しく加工されているかどうかを見極める、品質管理の場として機能しています。この一環として、小胞体では生まれたばかりのプロインスリン(インスリンの前駆体)が正しく折り畳まれ、インスリンとして働けるようになるようタンパク質の加工が行われています。近年の研究から、タンパク質の品質管理の仕組みのひとつとして、タンパク質同士がゆるく集まったり離れたりする「相分離」と呼ばれる現象が、私たちの体の中で起きていることがわかってきました。これまで小胞体内は一様と考えられていましたが、本研究によりタンパク質品質管理は、カルシウムを介した相分離が、小胞体内で新たな区画を作ることで行われていることを明らかにしました。この未知のメカニズムを解き明かすうえで、弊社コア技術である MAGmir(*2) の原子レベルの解析が決定打となりました。

 本研究では、小胞体内に存在する分子シャペロン「PDIA6」に注目しました。分子シャペロンはタンパク質の一種で、他のタンパク質の折り畳みを助け、品質管理の役割を担います。小胞体内でカルシウム濃度が上昇するとそれがスイッチとなり、 PDIA6 が相分離を起こすことがわかりました。これまでPDIA6はプロインスリンの品質管理に関わっているだろうと考えられていました。今回の研究により、相分離し集合化したPDIA6が、プロインスリンが正しい形に折り畳まれるのを助ける一方で、誤って固まってしまうのを防ぐことが明らかになり、その結果としてインスリンの生産に不可欠であることが示されました。研究グループは、カルシウムを仲立ちとして起こるこの集合化を、「タンパク質品質管理顆粒」と命名しました。 

 MAGmir は、このPDIA6 の相分離を証明するうえで唯一無二の役割を果たしました。カルシウムを介した相分離のメカニズムを説明するためには、相分離形成に至る構造変化の過程を原子レベルで示す必要があります。カルシウムが PDIA6 のどの部位に結合し、どのようにして分子同士のゆるやかな結合(集合化)へとつながるのか、この一連の流れを可視化しなければなりませんでした。相分離は、分子がゆるく結びついたり離れたりする連続的な動きを伴うため、観察が特に難しい現象です。MAGmirを使い、アミノ酸残基(アミノ酸が結合して鎖状に繋がったときの個々のパーツ)を信号の変化で捉えることで、どの部位がカルシウムと結合し、どのように構造変化を経るのかを解析しました。つまり、カルシウム結合が引き金となり相分離する機構を、原子レベルで証明することに成功しました。

 本研究で示された「タンパク質品質管理顆粒」の存在は、インスリンの品質管理に限った話ではないと私たちは考えており、これはタンパク質品質管理メカニズムに新しい視点をもたらすものです。「タンパク質品質管理顆粒」を標的とした創薬研究は、パーキンソン病、アルツハイマー病などの神経変性疾患や糖尿病に対し、従来の延長線上にはない革新的な治療法を生み出す一歩になる、と考えています。特に、PDIA6は各神経変性疾患との因果が数多く論文として発表されており、今回の発見がさらに関連疾患の理解の深まりに繋がることが期待できます。また、シャペロンが相分離することも殆ど報告されておらず、集合化したシャペロンを標的にした創薬も期待できます。

 本研究の結実を導いたMAGmirの唯一無二の役割は、分子の緩やかな動き、連続した構造変化を可視化することです。弊社は、この技術を神経変性疾患等の創薬に活かすとともに、同様の分子の動きの解析を求める皆さまへの受託解析として提供し、より多くの創薬研究に貢献してまいります。

(*1) 小胞体
ヒトの細胞は、主に「細胞膜」「細胞質」「核」より構成される。細胞質の中にはさまざまな細胞小器官があり、小胞体はそのひとつ。小胞体にはリボソームと呼ばれる分子が付着し、このリボソームで分泌タンパク質や細胞膜タンパク質が合成される。合成されたタンパク質は、小胞体の内側に送り込まれ、正しく働く形に折り畳まれ(加工され)る。また小胞体内では、タンパク質が正しく折り畳まれているかを確認する「品質管理」が行われ、問題のないタンパク質のみが次の細胞内の場所へと輸送される。小胞体内は、細胞質に比べて非常に高いカルシウム濃度を保っていることが知られている。

(*2) MAGmir
核磁気共鳴法(NMR)を利用した、詳細な分子動態情報を取得する方法。
NMRは、Nuclear Magnetic Resonanceの略。磁場中に置いた物質の原子核が自転し、電磁波に応答する性質を利用して、分子の構造や性質、運動状態を調べる分析手法。溶液中における生体分子を原子分解能で観察することができる。

論文本文はこちら

https://www.nature.com/articles/s41556-025-01794-8

【関連記事】

奈良県立医科大学

プレスリリース

https://www.naramed-u.ac.jp/university/kenkyu-sangakukan/oshirase/r7nendo/pdia6.html

東北大学

プレスリリース

https://www.tohoku.ac.jp/japanese/2025/11/press20251112-01-PDI.html

日経新聞

「細胞にたんぱく質の「品質管理工場」 東北大など、創薬応用に期待」

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOSG112TF0R11C25A1000000

tbc東北放送 公式YouTube

「体の中の「小さな工場」で新発見! 糖尿病やアルツハイマーの治療につながるか 東北大学などの研究チームが発表」

読売新聞 12/18夕刊4面

「糖尿病など新薬可能性」

河北新報 11/12 朝刊1面

「タンパク質管理仕組み発見」

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